公開日:2021年1月5日

後方視試験で差がない事(非劣性)を証明する統計手法とデザインの相談

平素より大変お世話になっております。
10月の統計セミナーでは大変お世話になりました。

本日は統計学的なことでご教授頂きたいことがありメールさせて頂きました。
以下に検討いただきたい臨床研究のデザインを記載させて頂きます。

目的:
あるカテーテル治療の効果判定のために、治療の最後に誘発試験を行うのが一般的なルーチンとなっているが、その誘発試験が必要かどうかを検討する後方視試験。
方法:
2014-2020年に当院でカテーテル治療を施行した約700例。誘発試験施行群(約600例)と未施行群(約100例)の2群に分け、主要評価項目は1年以内の再発(生存曲線を用いる)とする。

という試験を計画しております。ログランク検定で統計学的有意差がつかなかった場合、「今回の検定では差がつかなかった」以上の事は言えないと僕は解釈しています。本来ならば前方視試験で非劣性試験を組むべきなのかと思いますが、他の統計学的手法(可能であれば後方視試験)で差がない事を示せるようなものがあればご教授頂ければと思います。

よろしくお願いいたします。

北里大学医学部循環器内科学 及川淳

及川 淳|2021年1月5日 14:37

北里大学医学部循環器内科学
及川 淳 先生

ご投稿有難うございます。
近日中に回答させていただきます。

しばらくお待ちください。

事務局

プログラム 事務局|2021年1月5日 14:46

ご質問ありがとうございます。以下に回答申し上げます。
結論から述べると、非劣性試験を組む以外に、既に標準的治療である誘発試験施行群と非施行群の差がないことは証明できません。
 仮説検証とは、「差がない」という帰無仮説と「差がある」という対立仮説を立ててから検定を行うことです。
その検定の結果として棄却されるのは「差がない」という帰無仮説です。これは「差がない」ことの証明ではなく、「差がないとは言えない」ことの証明です。
この問題は、便宜的に「悪魔の証明」と呼ばれ、消極的事実の証明の困難性を表しています。
“この世に悪魔はいる”という命題を証明するためには実際に悪魔を見つければよいのに対し、“この世に悪魔はいない”という命題を証明することは困難です。
ある方法を用いて悪魔を探したが悪魔は見つからなかったという“証明”に対して、探し方に問題があるという反論は尽きないからです。
 
後方視による観察研究の結果から言えることは、「今回の観察では有意差がなかった」ことですが、臨床的な文脈としては、誘発試験が不要ではないか?という仮説形成はできると思います。
当然、後方視による観察研究では、症例数によって統計的パワーが不足するために「有意差がない」という結果が出た可能性があり、無限に症例数を増やせば有意差が出ます。勿論逆の有意差が出れば(非誘発群の方が予後がよい)、臨床的には誘発試験を消し去れます。
なお、本事業の観点(研究公正・研究倫理)からもこの命題は取り組むべきです。恐らく、有意差がなくても、点推定で非誘発群の予後がよければ、または誘発の危険性を正当化するほどの予後の効果が認められなければ、臨床研究者としての次のステップはどのようにお考えでしょうか。ご意見をお聞かせいただければ幸いです。

引き続き、後方視による観察研究でも、臨床試験でも、是非臨床に役に立つ研究を進めて下さい。

プログラム 事務局|2021年1月12日 16:20

ご教示いただきありがとうございます。
頂いたご回答の自分なりの解釈ですが、検定をおこない、統計学的有意差がつかなかった場合に
「今回の検定では統計学的有意差はなかったが、可能性として誘発試験が不要との仮説が得られた。よって今後、前方視的に検討する」という研究結果は容認されるということでよろしいでしょうか。
また、その研究が成り立つ場合に、(今回の研究は心房細動のカテーテル治療後の再発率をみた研究なのですが)前述の2群間の症例数にばらつきがあるため、再発を来す一般的に言われている因子(左房径や病型)でマッチングを行い、2群間の症例数を同数くらいに合わせて解析しようかと考えているのですが、この点についてご教示頂ければ幸いです。
最後に、頂いた質問に関してですが、点推定で非誘発群の予後が悪くなければ、誘発群、非誘発群の2群間のROCを組んで証明することも視野に入れようかと考えております。

よろしくお願いいたします。

及川 淳|2021年1月13日 15:43

及川先生
お返事が遅くなり申し訳ありません。
新たに頂いたご質問ですが、分かり難い部分があるので詳細を教えて頂けますでしょうか。
特に具体的にお教え頂きたいのは以下の2点です。
まず、新たに検討されている研究はどのようなデザインなのか、具体的にお教え頂けるようお願いします。
次に、マッチングと仰るのは、どのような研究デザインにおいてマッチングを使われるご意図でしょうか。
お手数ですがよろしくお願いいたします。

プログラム 事務局|2021年1月29日 13:29

お世話になっております。
言葉足らずで申し訳ありません。
マッチングと言うのは、最初のデザインにおいてマッチングして症例数を合わせるのはどうかという事でした。以下に、具体的に提示させて頂きます。

目的:
あるカテーテル治療の効果判定のために、治療の最後に誘発試験を行うのが一般的なルーチンとなっているが、その誘発試験が必要かどうかを検討する後方視試験。
方法:
2014-2020年に当院でカテーテル治療を施行した約700例を誘発試験施行群(約600例)と未施行群(約100例)の2群に分け、更に、再発に寄与すると言われる因子(左房径、心房細動病型)をマッチングさせて誘発試験施行群(100例)と未施行群(100例)の2群間で検討を行う。主要評価項目は1年以内の再発(生存曲線を用いる)とする。

上記のようなデザインとすることで2群間の症例数のばらつきは無くなると思うのですが、これがデザイン的、統計学的、あるいはメッセージ性(?)として、マッチングさせない場合と比較して違いがあるのかをご教示頂ければと思います。
うまく伝えられず申し訳ございませんが、よろしくお願い致します。

及川 淳|2021年1月29日 15:51

お世話になっております。
そこまで急いでいるわけではないのですが、進捗状況をお伺いいたしたくメールさせて頂きました。
よろしくお願いいたします。

及川 淳|2021年2月8日 20:02

及川先生、
お待たせして誠に申し訳ございません。
こちらのシステムの不具合で、投稿いただいたものが確認できておりませんでした。
できるだけ早く対応させていただきます。
引き続きよろしくお願いいたします。

事務局

プログラム 事務局|2021年2月8日 22:54

及川先生
返信をお待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした。
以下、回答させていただきます。

先のご相談に関して、マッチングを行っても、今回ご質問の命題である「統計学的有意差がつかなかった場合に、今回の検定では統計学的有意差はなかったが、可能性として誘発試験が不要との仮説が得られた。」ということを示すことはできません。
「不要」群で有意差を持って予後がよければ、後ろ向き観察研究でも「誘発試験が不要との仮説が得られた。」として構いません。
しかし、有意差がないものは、どのような結論も仮説も得られません。(プロペンシティスコア)マッチングは背景補正の一つの方法ですが、どのような補正をしても今回のような後ろ向き観察研究で有意差がないものを持ってきて、「仮説が得られた」ことにはなりません。
ただ、誘発試験をすると予後がいいと信じられていたとすれば、今回の研究結果はそれを支持しない結果であるため、その原因が標本の問題か、パワー不足の問題か、それとも誘発試験の有用性の問題か、それ以外か、ときちんと分析するとよいでしょう。
プロペンシティスコアマッチング法をpseudo RCTと呼ぶ方もおられるので、RCTの代替としてマッチングを提案されているのであれば、マッチングがRCTの代用になるものではありません。
非劣性は、事前に非劣性マージンを設定するから、ロジックが通用しますが、後ろ向き観察研究にこの考え方は適用できません。
これがお尋ねしたいことに対する回答になったか分かりません、また、遠慮なくご質問下さい。

プログラム 事務局|2021年2月23日 23:14

お世話になっております。
ご教示頂きありがとうございました。
今後もよろしくお願いいたします。

及川 淳|2021年2月24日 07:51

及川先生

今回のやり取りですが、非常に勉強になるテーマかと思われますので、匿名化して共有(Q&Aのコーナーに移載)させていただいてもよろしいでしょうか。

事務局

プログラム 事務局|2021年2月24日 10:28

お世話になっております。
お役にたてるのであれば是非活用して頂ければと思います。
ただ、可能であればで構わないので、研究の詳細内容が分からないようにして頂ければと思います。
例えば心房細動、左房径などの単語を削るなど。。
削ることによって意味が分かりにくいようであれば入っていても構いません。
あと、Q&Aのコーナーにある項目を拝見させて頂こうと思ったのですが、クリックしても見ることが出来ないのですが、どのようにすればよいかご教示頂ければと思います。
よろしくお願いいたします。

及川 淳|2021年2月24日 12:37

及川先生
ご連絡有難うございます。
研究の詳細がわからないようにすることは非常に大事な点になりますので、慎重にさせていただきます。

Q&Aコーナーですが、当方で他のIDでログインして確認したところ、確かに見られないです。不具合ですので、早急に対応いたします。気づいておりませんでしたので、ご連絡感謝いたします。

及川先生のこちらのやり取りに関しましても、Q&Aへの移設の準備ができましたらまたご連絡させていただきます。

引き続きよろしくお願いいたします。

事務局

プログラム 事務局|2021年2月24日 16:30

ディスカッションは終了しました。

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